うつ病は就業不能保険の保障対象か?精神疾患や適応障害に使える保険
「働けなくなったらどうしよう」家計を支える世代には常に付きまとう不安です。
働けなくなる事情は様々ですが、うつ病や適応障害などの精神疾患による休職・離職の割合は、とても高いです。精神疾患は身近な存在です。いつ、誰がなってもおかしくありません。罹患してしまった時の備えはできていますか?
一番心配になることは、ズバリ『お金』ですよね。
病気やケガにより働けなくなったときの生活費をカバーする就業不能保険は、近年広告などでよく耳にすることが多いですよね。では、どのような保険か知っていますか?
このコラムでは、うつ病などの精神疾患は就業不能保険で保障されるのか。また、精神疾患になった時に利用できる公的保険制度はあるのかを紹介していきます。
備えあれば憂いなし!このコラムを読んで、病気やケガで働けなくなった時にどんな保険が利用できるのかを知って備えましょう!
知っておきたい、精神疾患について
全国健康保険協会(協会けんぽ)山形支部の2022年の報告書によると、傷病手当金のうち、請求原因となった傷病別に構成割合をみると、うつ病などの「精神及び行動の障害」が2019年度~2021年度の間3年連続、全国で請求原因の第1位でした。しかも、年々割合が増えています。
引用:『協会けんぽの傷病手当金「精神疾患」が毎年増加 ~3年連続請求原因第1位に~』https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/r4pressrelease041207_20230626.pdf
このように、働くことができない原因として「精神疾患」は大きな割合を占めています。
精神疾患で誰もが知っているのが「うつ病」と言えますが、この「うつ病」と似た症状が出るのが「適応障害」です。「適応障害」は、特定の出来事や環境といったストレスが原因で発症します。会社とのトラブルが原因だと、会社に行く前に頭痛や腹痛などの身体症状が現れることも。
他にも精神疾患には様々な病名や症状があります。「統合失調症」「摂食障害」「パニック障害」など……その症状ごとに治療法は違いますが、共通して言えることは、信頼のできる病院に通院し、しっかりと休養をとることです。
就業不能保険とは?医療保険とは何が違うの?
治療や休養が必要となった時、一番の心配は医療費や生活にかかるお金をどうするかですよね。
就業不能保険とは、長期の入院や自宅療養などが必要となり長期間働けない(就業不能)状態になった場合に、一時金や年金、または毎月など、商品によって決められた形で給付金を受け取れる保険です。
就業不能状態とは、
・病気やケガにより長期間入院をしている
・医師の指示により、在宅療養をして治療に専念している
・障害等級1級・2級に該当する
などに当てはまる状態のことを言います。
医療保険に加入していれば十分では?と思うかもしれませんが、医療保険が保障するのは、主に「入院したとき」や「手術したとき」の医療費です。退院したあとは、医師の指示で在宅療養になったとしても給付は受けられません。そうすると、日々の生活費に困ってしまいます。
医療保険は、病気やケガにより入院・手術をしたときの「一時的」な「医療費」をカバーする保険に対して、就業不能保険は、病気やケガにより働けなくなったときの「長期的」な「生活費」をカバーする保険なのです。
うつ病は就業不能保険の保障対象か?
うつ病などの精神疾患は就業不能保険の保障対象外となる場合もあります。
精神疾患は数値などで表すことが難しい上、罹患時の見分けが難しい病です。保険商品は公平性を保障しなければなりません。他の契約者と不公平が生じないようにすることが難しいことから、精神疾患は保障対象外としている商品も少なくありません。
近年では精神疾患をカバーする保険も出てきていますが、他の病気やケガに比べて受け取りの要件が厳しいことが多いので要注意です。具体的には「保険金がおりるには入院が必要である」「受け取れる給付金の上限が低い」などといった違いがあります。
うつ病などの精神疾患でも給付金を受け取れるかどうかは、保険会社ごとに異なります。精神疾患による休職に備えたい場合には、保障の範囲を事前にしっかりと確認しておきましょう。
知っておきたい!精神疾患にかかった時に利用できる公的保険
精神疾患は就業不能保険の保障対象外となる場合もあるため、民間保険を検討する前に知っておきたいのが公的保険制度についてです。
保険会社が運営する民間保険は任意加入である一方、国が運営する公的保険は原則として強制加入です。毎月支払わなければならないため負担に感じますが、実は、精神疾患にかかってしまった時には公的保険で受けられる手当も多くあります。ここでは、その中から4つ紹介していきます。
傷病手当金
「傷病手当金」とは、病気やケガで働けず会社を休んだときに収入をカバーしてくれる制度です。傷病手当金を支払うのは会社が加入している健康保険組合(代表的なのが全国健康保険協会)です。
傷病手当金を受給するには、4つの条件を全て満たす必要があります。
1.業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
業務上の事由による病気やけがの場合は、傷病手当金ではなく、労災保険の給付対象です。
2.勤務できない状況にあること
「病気やけがの療養」とは、医師の指示のもと、病気やけがの治療のために仕事を休むことです。医師の指示があれば、入院だけでなく自宅での療養も該当し、うつ病などの精神疾患も対象です。ちなみに、つわりで働けなくなった時にも傷病手当金を受け取れることがあります。
3. 連続する3日間を含み4日以上仕事を休んでいること
傷病手当金は、病気やケガが理由で3日間以上連続して仕事を休んだときに4日目の休みから支給されます。最初の3日間は有給休暇や休日、祝日に該当する日であっても対象としてカウントされ、4日目からは連続した休みである必要はありません。
4.休んだ期間に給与の支払いがないこと
傷病手当金の申請は、一般的に会社を介して行います。傷病手当金を申請する前に、まずは病気やケガで長期間休む必要があることを会社に報告します。あわせて、有給休暇や欠勤、休業の扱い等についても確認しておきましょう。
そして、加入している保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)から傷病手当金支給額申請書を取り寄せます。書類には担当医師や事業主に記入してもらうものもあります。申請書の提出は、会社の担当部署に提出するのが一般的です。
失業給付金(雇用保険の「基本手当」)
失業給付金は、雇用保険に一定期間加入していた人が、職を失って働けない間の生活保障としてもらえるお金です。一般的には「失業手当」や「失業給付」と呼ばれていますが、正式名称は、雇用保険の「基本手当」といいます。
この基本手当の対象者は、「いつでも就職できる状態にあり、就職する意思があり、ハローワークに求職の申込みをしている人」のため、病気の療養によりすぐに就職できない方は対象外です。
しかし、療養中ですぐに働けないという方は、ハローワークで受給期間の延長手続きをしておくと、受給期間を最長で離職日の翌日から4年以内まで延長でき、回復後に失業手当を受け取ることができます。ただし、受給期間の延長は支給期限の先延ばしで、受け取り総額が増えるわけではないので注意しましょう。
雇用保険の基本手当は、ハローワークで受給の手続きを行います。
障害年金
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代も受け取ることができる年金です。
病気やケガで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」を受給でき、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」を上乗せして受給できます。
1級と2級では障害基礎年金と障害厚生年金がともに対象ですが、3級は障害厚生年金のみが対象です。
障害が重い方から1級、2級、3級の順番で、年金の額も1級が一番高くなっています。1級は「他人の介助を受けなければ日常生活がほとんど送れない程度」、2級は「必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度」、3級は「日常生活に支障がなくても、労働が著しい制限を受ける程度」と規定されています。
請求の手続きは、まずは初診日を調べてから、年金事務所や街角の年金相談センター、市町村役場の国民年金課などに相談するという流れです。『初診日』とは、障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けた日のことです。
自立支援医療制度(精神通院医療)
「自立支援医療」とは、心身の障害の治療などで生じた医療費の自己負担を軽減できる制度です。その中でも、精神疾患の医療費の自己負担を軽減できる制度が「精神通院医療」です。
公的医療保険による医療費の自己負担額は、小学生以上~70歳未満の人は通常3割ですが、
これに自立支援医療が適用されると、自己負担額は原則1割です。
1割の負担額が過大になりすぎないように、世帯所得などに応じて1ヵ月あたりの自己負担額に上限が設けられています(高所得の場合は自己負担額の軽減が受けられない場合があります)。
さらに、統合失調症などで、医療費が高額な治療を長期間にわたり続けなければならない場合は「重度かつ継続」が適用され、1ヵ月当たりの自己負担上限額が低くなります。
「自立支援医療」を受けられるよう申請するのは、市区町村役場が申請窓口です(市区町村によって、担当する課の名称は異なります。「障害福祉課」や「保健福祉課」が担当する場合が多いようです)。
通院している病院で、医師の診断書をあらかじめ用意してもらう必要があります。市町村に申請する前に、主治医や病院の受付で「自立支援医療の申請を行いたいのですが、診断書の作成をお願いできますか」と相談してみましょう。
公的保険制度を受けられないケースも
筆者も妊娠中のつわりの時に、長期間仕事を休むことになって傷病手当金を申請しましたが、働けず休職する時に一番身近な公的保険は傷病手当金ではないでしょうか。
しかし、傷病手当金を支払うのは会社が加入している健康保険組合なので、国民健康保険に加入している場合は受け取れないのが注意点です。
また、雇用保険の基本手当も、雇用保険に加入していなければ受け取れません。つまり、自営業やフリーランスは受けられる公的保険制度の幅が狭くなってしまうのです。働けない期間は収入が途絶えてしまうリスクが大きいため、自営業者やフリーランスの人は就業不能保険を検討してみても良いかもしれません。
精神疾患にかかったことがある人が就業不能保険を検討するときの注意点
就業不能保険には、うつ病や適応障害などの精神疾患も告知義務の対象として定められています。
保険における告知義務とは、加入者が保険会社側に過去の病歴や現在の健康状態などを申告する義務のことです。
精神疾患の治療中の場合や、過去に精神疾患を患ったことがある場合は、既往歴などを保険会社へ申告する必要があります。
「通院していたことを知られたくない」などと思うかもしれませんが、告知で事実とは異なることを伝えたり、伝えるべきことを伝えなかったりすると「告知義務違反」とみなされます。もしも、契約成立後に告知義務違反が発覚すると、契約解除になり、ペナルティを課せられるおそれもあります。
まとめ
精神疾患が原因でやむを得ず休職・退職する場合には、このコラムで述べてきたような公的保険制度を利用し、給付を受けることができます。
しかし、国民健康保険には、傷病手当金の制度がありません。雇用保険に入っていなければ、失業して求職中の手当も受け取れません。自営業やフリーランスの人は働けない期間は収入が途絶えてしまうリスクが大きいため、民間保険で足りない部分を補うことも視野に入れると良いでしょう。
民間保険の医療保険は、基本的には医師の指示で在宅療養になったとしても給付は受けられません。一方、就業不能保険は「長期的」に在宅療養が必要になった時などの「生活費」をカバーする保険です。
就業不能保険で精神疾患が対象になる場合でも、他の病気やケガに比べて受け取りの要件が厳しい場合が多いので、就業不能保険を検討する時には、条件をしっかりと確認してください!また、今までに精神疾患にかかったことがある人は正しく既往歴を申告しましょう。