簡易課税の計算方法とは?原則課税との違いや消費税納付の際のメリット・デメリットを解説
簡易課税制度ってご存知でしょうか?
世間は増税の関係でメディアも税金について取り上げる番組が多く見られます。その影響もあって普段興味・関心がない人でも「税金」に関して注目する人も増えている時期だと思います。そこで皆さんにお聞きしたいのですが、「簡易課税制度」についてご存じでしょうか?フリーランスや自身で企業経営している人はご存じだと思いますが、普通の主婦や会社員の人ではあまり聞き覚えのない言葉だと思います。これからフリーランスの仕事をしたい、起業していきたいと考えている人達のために、ここで「簡易課税制度」について少しお話していこうと思います。
簡易課税制度とは
【課税売上高が5,000万円以下の中小企業者の事務負担を軽減することを目的とし、届出を行った事業者に対して、簡易化された仕入控除税額の計算を認める制度】
ですが、わからない言葉ばかりでわからないという方もいらっしゃると思います。私もよくわからず調べないと理解ができなかったので順を追って説明していきます。そのためにはまず【課税制度】についてお話していきます。
まず消費税の納付税額の計算方法なのですが、下記の図式で表されます。
(売上で徴収した消費税)-(仕入で支払った消費税)=納付税額
売上で徴収した消費税をⒶとし、仕入で支払った消費税をⒷとしましょう。
Ⓑは仕入先が納付することになっているので、自社が納付すべき税額はⒶから支払われた税額を控除したものとなります。この時に控除された金額が、先程文中に出てきた【仕入控除税金額】となるのです。仕入控除税金額の計算には事業者が課税の対象となる仕入高の他に設備購入等、支払取引すべての消費税が含まれています。なので、事業者は仕入を行う度に金額を記録しなくてはいけません。納付税額の計算の時に課税対象となるものだけを合算して計算を出していかなければならないのですが、この作業はとても時間がかかり大変な作業なのです。
そこで、この作業を軽くするために、税務署に届出を提出します。それにより、事業者は売上に関してのみの記録を・計算するだけになり、事業者の負担が大幅に軽減されるということになるのです。この一連の流れを行うことができる制度を「簡易課税制度」となるのです。簡単に言いますと、「大体このぐらいの割合で納税額を計算してください」という風に「みなし仕入率」というものを元に簡単な式で算出される金額を納税できるようになります。
実際の計算式を知りましょう
では納税する消費税の計算方法はどうなるのか?計算式として
Ⓐ-(Ⓐ×みなし仕入率)=簡易課税消費税額
という計算式が成り立ちますが、この「みなし仕入率」は業種によって異なってきます。区分を説明するには下記をご覧になってください。
◆第一種事業(卸売行)→90%
仕入れた商品をそのままの形で他の事業者に販売する事業
◆第二種事業(小売業)→80%
卸売業から仕入れた商品をそのままの形で消費者に販売する事業
◆第三種事業→70%
農林水産業・鉱業・建設業・製造業(製造小売りも含む)・電気ガス水道関連業
主にインフラ関連事業を行うものと考えていただいて構いません。
◆第四種事業→60%
第一~三種と第五・六種以外の事業を指し、飲食業が主な事業
しかし、第三事業に関連するが加工やその他の工程を経て対価が得られる事業は第四になる。
◆第五種事業→50%
サービス業・通信・金融保険業
通信もインフラにあたるが、第一~三事業に該当する場合、通信業はここには該当しない。
◆第六事業→40%
不動産業が該当。平成27年の法改正後、第五種事業から新しい枠組みとなり事業区分されました
先程の計算式にご自身の事業のみなし仕入率を当てはめて計算すれば、ご自身の簡易課税消費税額が判明します。
例としてご紹介すると、ITフリーランスの方が消費税込で1,080万円の売上があった場合、ITフリーランスは第五種にあたる為みなし仕入率は50%、計算式に当てはめると
税込売上1,080万円-税抜売上げ=80万円
80万円×みなし仕入率50%=40万円
80万円-40万円=40万円 よって簡易課税消費税額は40万円となります。
この計算方法によって本来の計算式よりも納税額が半分程に抑えられるのは、この制度のメリットと言える部分でしょう。
すごく助かるこの「簡易課税制度」ですが、届出を出せば誰もが利用できるものではないのです。次にこの制度を利用するにあたっての条件をご紹介していきます。利用するのに必要な条件というのが
◆前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下であること→そもそもこの制度は5,000万円以下の中小事業者が利用することを前提としています。
◆「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している
→課税期間開始前日までに税務署長に提出する必要があります。慌てても変更はできませんので、中長期的な計画が必要不可欠となります。
【注意点】
※2年間は原則課税に変更することは出来ません。届出書を提出したら2年間は強制適用となります。
※この制度の適用している年に5,000万円以上の売上の場合は、その年のみ本来の消費税額の計算で納税する必要があります。次の年に再度売上が5,000万円を下回った場合は、その期間について改めて簡易課税の手続きをする必要はありません。
※事業内容によってこの制度を利用しない方がいいという場合、自己判断で本来の消費税額で計算・申告してはいけません。必ず「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を別途提出する必要があります。
初めてこの制度を利用する時には綿密な事業計画を立てなければいけませんので、税理士に相談し経理面をきちんと明白にしてから利用すると良いでしょう。
課税制度は2種類あります
先程「本来の消費税額で計算」と言ったのは、最初に出てきた
(売上で徴収した消費税)-(仕入で支払った消費税)=納付税額
ですがこの課税方式を「原則課税」と呼びます。消費税はこの原則課税が存在し、特例方法として「簡易課税」が存在している状態なのです。この二つの課税制度の違いが判らないという方のために簡単にまとめていきます。
原則課税制度
売上で預かった消費税から仕入れの際に支払った消費税を差し引いて納税額を算出します。特に事前の手続きは必要ありません。原則課税における仕入控除額は「仕入れで支払った金額」の計算で算出される部分に当たります。
簡易課税制度
前々事業年度の売上が5,000万円以下で事前の手続きを行う必要があります。みなし仕入率を掛けた仕入控除額を課税売上高から差し引いて納税額を算出します。簡易課税を適応させる日の前日までに届け出が必要です。簡易課税における仕入控除額は「売上で徴収した消費税額×みなし仕入率」の計算で算出される部分に当たります。
二種類あるけれど、どちらを選択した方がいいのかと思いますよね?簡易課税についてはいろいろと話をしてきましたが、もちろん全てが簡易課税を適応にした方がいいとは断言できないのです。なぜなら、簡易課税より原則課税の方が納税額を抑えられる場合もあるからです。今後の事業内容や収入の見通しを考えてどちらを選ぶかを見定める必要があるので、簡単に利点と欠点を紹介していきます。
【利点】
原則課税
◆仕入れや設備投資等で支払った消費税が、売り上げで預かった消費税を上回った場合、還付を受けることができる。
◆適用期間もなく、手続きの必要もない。
簡易課税
◆納税額の計算が簡単に行える。
◆みなし仕入率の計算によって節税になる場合がある。
◆帳簿付けの必要がないので、業務負担が削減できる。
【欠点】
原則課税
□手続きや帳簿付けが大変で業務負担が増えてしまう。
□節税の効果は期待できない。
□非課税の仕入れは控除できない。
簡易課税
□2年間は原則課税に戻すことができなくなる。
□2つ以上の事業を行う時は事業区分を分ける必要がある。
□場合によって原則課税よりも納税額が高くなってしまうこともある。
□消費税の還付は受けることができない。
ここまで話をして分かる人もいると思いますが、原則課税も簡易課税も一長一短なので「こちらの方がおすすめです!」と断言することはとても難しいのです。自身の事業成績や計画を見通して初めて「こちらの方がいい」と言えるので、安易にどちらにしようかを決めないようにしましょう。
原則課税の欠点の「非課税の仕入れは控除できない」に当たる部分として、人件費・租税公課・家賃などがあります。これは「手続きの面倒や税額が高くなる欠点はあるが、原則課税なら消費税控除額をたくさん積み増やしていけば還付が受けられる」ということではありませんので誤解しないように気を付けてください。確かにすべての取引による消費税が課税対象になるわけではありません。ですが勘違いをしてしまうと「嘘の申告」をしたことになり罪に問われてしまいます。わからないことは独断で判断せず、専門家である税理士に相談するようにしてください。
さて、簡易課税制度の届出書には提出期間に期限が存在するということは、ここまで読んでいただけたならご存じですよね?
◆消費税簡易課税制度選択届出書:課税対象の期間開始の前日までに提出
◆消費税簡易課税制度選択不適用届出書:簡易課税制度をやめようとする期間の開始前日までに提出(簡易課税制度の適用をなしにしたい日の前日ということ)
※不適用届出書は4月1日以降に簡易課税制度ではなく本来の消費税額による納税をしたいと考えているのであれば3月31日までに提出しなくてはいけないということになります。
※消費税簡易課税制度選択届出書を出したら2年間は変更できないので、消費税簡易課税制度選択不適用届出書を出すことができるのは2年後になります。
簡易課税制度の歴史とこれから
簡易制度は最初から5,000万円ではなかったのです。日本の経済情景に応じ、この制度も変化してきました。ここでは簡易課税制度の歴史やこれからの問題点などを話していきたいと考えています。
簡易課税制度は消費税が日本に導入された時に、すべての事業者に一律本則課税による仕入控除税額の算定を求めることが困難だったことから、中小事業者の事務処理能力を勘案して設けられたものでした。年表として表していくとこうなります。
◆昭和63年(施行平成元年4月1日)
適用事業者は課税売上高が5億円以下の事業者
◆平成3年(施行同年10月1日)
適用事業者は課税売上高が4億円以下の事業者 ※業種区分が増えた
◆平成6年・平成8年(施行平成9年4月1日) ※業種区分が増えた
適用事業者は課税売上高が2億円以下の事業者
◆平成15年(施行平成16年4月1日)
適用事業者は課税売上高が5,000万円以下の事業者
◆平成26年(施行同年4月1日)
適用事業者は課税売上高が5,000万円以下の事業者 ※業種区分が増えた
上記の通り年々適用上限金額が引き下げられているのはわかるかと思います。
これらの歴史を見ていく中で、適用割合の低下はしていくが、消費税制度が定着し事業者が納税事務に熟知してきたと考えられること、事務能力のある中小企業者の多くが損得を計算した上で適用している事実、こうしたことを踏まえ免税点制度の改正に伴った新たな課税事業者となる者も事務負担を考慮しつつ、簡易課税制度を原則廃止にすることが適当であると平成14年11月の税制調査会の税制改革答申で言われました。つまり、税制調査会は原則的にはすべての事業者に対し本則の計算方法による対応を求め、最終的には簡易課税制度そのものを廃止するべきであると打ち出している現状が存在します。
ここで考え直したいのは簡易課税制度の必要性になってきます。 現在の簡易課税制度は「消費税制度の定着」と「情報技術の発達による事務簡便化」という二つの観点から、立法時の目的であった「中小事業者の事務負担軽減」を達成している上、「制度上の欠陥による発生する益税問題」が課税の公平確保の上で見過ごすことのできない問題として廃止するべきと主張する方々が多いからなのです。
先程「中小事業者の事務負担軽減」を達成していると申しましたが、中小事業者の事務はいまだに大変で面倒な消費税の本則計算を滞りなく行える状態であるとは言えないのが現状です。むしろ、期間中に膨大な取引処理をし、その税額計算を間違いなく処理できることの方が少ないのです。それは会計ソフト等の情報技術が発達し、高性能な物でも安価に入手できるようになった一方で、そのソフトを使用する条件としてある程度の専門知識が必要となってしまうのです。その専門知識を持った専門事務員を雇用する余裕のない中小事業者は、記帳代行を税理士に委託しますが、この場合でさえ本則課税における仕入税額控除の集計は仕入取引ごとに税区分をして結果を集計するため、手間はかかってしまいます。
これに比べ、簡易課税制度を選択した事業主の消費税計算の多くは課税売上高を把握するのみで年間消費税の納付額を計算することが可能になります。ここで記帳代行を主に取り扱っている税理士であっても、本則課税を選択した事業主に対しては通常その手間分の顧問料を上乗せしなければならないのです。結局、税理士に委託して本則課税計算の手間を省いても事業主の経済的負担は増えてしまうのです。これでは本来の「中小事業者の事務負担軽減」にはなりませんので、廃止を謳う人がいても仕方がないですね。
増税に伴う簡易課税制度の在り方
10月から始まる増税による消費税10%、これにより実務上の事務処理の煩雑が増大されることが予想されています。それと同時に複数税率の導入が決定した為、さらに消費税制度は複雑化されてしまいます。それによって事業者のみならず課税庁も煩雑してしまい、両者間でも会見の相違が生じてしまうのではないかと懸念されています。ここで抜本的な消費税制度の改革を謳う記事をご紹介します。それを紹介するにはまず「インボイス」についてお話ししなくてはいけません。
インボイスとは?
適格請求書等の保存方式のことで、ここでは取引に関する重要な書類や請求書が含まれます。これを方式化した「インボイス方式」というものが2023年10月に日本で実施されることが予定されています。インボイス方式は課税事業者が発行するインボイス(請求書や納品書)に記載された税額のみを控除できる「仕入税控除」の方式のことを言います。このことで事業者に極力負担感や手間を感じさせないようにしていこうとしています。
また、納税義務者である事業者が正しく円滑に申告納税を行うために、滞納や益税が発生しないように制度を見直していかなくてはいけないのです。中小事業者に対する措置は国際にm来ても高いと言われている免税点を1,000万円低くすることよりも、免税事業者に該当する事業者も本則課税を選択するような、申告納税制度の簡素化と電子化の促進を図ることで納税者と課税当局の双方の事務を効率化する必要があるのです。
現行の帳簿を基準とした仕入税額控除の計算において、経営者目線の勘定科目の設定による消費税ソフトでは的確に対応しきれていません。つまり設定時と異なる税区分取引が発生すると手作業で修正を行わなくてはいけないという問題が発生してしまうのです。例ですと、税理士報酬(課税取引)を諸会費(通常・非課税取引と設定)した場合、経営者が管理しやすいように簡素な鑑定科目に統合した場合があります。現行制度では帳簿をもとに税額が計算されるため、この例のような場合、消費税ソフトによる機械的な処理に対して、税務上の修正を加えなくてはいけません。このような事情が消費税額の計算の複雑化を招き、本則課税による消費税額の算定をややこしくしているのです。
この問題に対しての解決策として、EU諸国の付加価値税にかかるインボイス制度を導入し、通常の法人税の計算と別個にし、切り離した計算精度にすることで消費税額の計算が実額の合計額から算定されるので、計算を単純化させることができ、解決の糸口となるのです。
多くのメディアでは増税前にしておくべきことを消費者目線で紹介していますが、調べていくと事業者にとっても増税は大変なことなのだと感じることができました。10月まであと2週間程ですが、10月になったら情勢はどう変わるのでしょう?その辺に関しても今一度考えていきたい問題点なのかもしれません。
【参照元】
◆横浜の税理士 さくら会計事務所「消費税簡易課税制度について」
◆MidWorks 「簡易課税制度の消費税の計算方法 事業区分・届け出について」
◆「簡易課税の計算方法と有利な選択」