元入金って知ってますか?開業したい人は一緒に学びましょう!
知ってましたか?元入金
唐突ですが、皆さんは「元入金」ってご存じでしょうか?
私は、この手の話がすごく理解不足で、正直この執筆をするまで詳しく知りませんでした。
そんな私のような人たちは、これを機に少し「元入金」についての知識を一緒に学びませんか?
まずは意味を理解しましょう!
では、まず「元入金」のそもそもの意味をお話します。「元入金」とは、個人事業主やフリーランスなどの個人が使用する勘定科目で、法人で言うところの“資本金”に当たる物になります。
開業するにあたって、事業主が用意した開業資金・準備金を「元入金」として帳簿付けします。
※元入金以外にも個人事業主のみが使う勘定科目を紹介しますが、勘定名のみで詳しくは省略させていただきます。
【・事業主借 ・事業主貸 ・青色専従者給与】
資本金のようなものですが、1つ大きく違う点があり、「元入金は毎年金額が変わる」という点があります。
資本金は増資という手続きをしない限りは、基本的に開業時の資本金金額が記載され続けます。ですが、元入金の場合、帳簿上次年度へ会計処理をスタートさせる際に、「元入金」勘定を使って仕訳することで、事業主借を事業主貸の金額を0にして期首(期間の始め)をスタートさせる必要があるため、確定申告時には事業主借と事業主貸を相殺した残高の差額を元入金に振り替える作業を行うのです。
これを法人と比べてみると、下記のようになります。
元入金(個人事業主)
■当年損益の処理…当年損益は翌年に元入金に参入される
■金額変動…損益で毎年金額が変動する
■マイナスになる可能性…可能性あり
資本金(法人)
■当年損益は翌年の資本金に参入されない。利益剰余金として資本金と区別される。
■金額は基本固定。増資・減資で変動
■1円以上でマイナスは存在しない。
実際に仕訳と計算をします!
元入金についてはなんとなくイメージができたかと思います。ここからは、仕訳や計算はどのようにしたらよいのかについて具体例をまじえてお話していきたいと思います。
例として、事業主が用意した100万円を事業用口座に入れて事業をスタートするとしましょう。
その場合の仕訳は
日付:2020年3月25日
借方:預金1,000,000
貸方:元入金 1,000,000
摘要:開業資金
これで、事業用口座に入金した100万円で事業を始めるということになります。もし事業用口座はひとまず用意せず、100万円の現金をもとにスタートするのであれば【借方】の“預金”を“現金”に変更して記帳するだけで大きな変更はありません。
また、期中(会計期間の途中)に元入金の勘定科目を使って記帳することはなく、今後は会見年度が変わる時だけ元入金を計算するだけです。
では、次に計算方法をお話します。
元入金の金額は期首(1月1日)と期末(12月31日)では変わりません。年度をまたぐ時(12月31日から1月1日)に更新されます。同じ年度の期首と期末は同じ金額であるものなので、例えば2019年12月31日と2020年1月1日のどちらかの日付で帳簿づけするのであれば、2020年1月1日に記帳づけしましょう。その時(12月31日)に行う計算を式に当てはめると、
今期の元入金+所得+事業主借-事業主貸=翌期の元入金
となります。
例として、開業した時に事業主が全財産の300万円を事業用口座に入金し、個人事業を1月にスタートしたとしましょう。
この場合の仕訳は
日付:2020年1月10日
借方:預金 3,000,000
貸方:元入金 3,000,000
摘要:開業資金
その後、事業主は生活費として毎月20万円事業用の口座から引き落とします。そして、その年の年間所得(利益)は500万円になったとしましょう。
この場合、
●事業のためのお金として最初に用意した300万円(元入金)
●事業主の生活費として20万円×12カ月分=240万円(事業主貸)
●売上-経費=500万円(所得)
これらを先程紹介した式
【今期の元入金+所得+事業主借-事業主貸=翌期の元入金】
に当てはめると、
※ここで言う所得は青色申告特別控除前の所得になります。
300万円+500万円+0円-240万円=560万円
つまり、翌期の元入金は560万円でスタートするということになります。
この例は「順調」に経営ができていると言えます。1年間の事業運営をしながら自身の生活を維持できていますし、事業資本である元入金も事業開始時よりも260万円増やしているのですから言うことなしでしょう。
順調なのですが、事業主貸の分だけ元入金は減少します。「元入金=儲け」ということではありません。事業が順調であったとしても、私生活を派手に送ってしまえば、翌期の元入金は減ってしまうということを忘れてはいけませんよ。
マイナスになってしまったら?
先ほど計算式で算出した金額などをご紹介してきましたが、例ではプラスになっていた元入金が、もしマイナスになってしまったら?と不安になる人もいると思います。確かに、実際に元入金がマイナスになってしまうことがあります。ですが、問題かと言うとそうでもありません。
帳簿上は元入金がマイナスになったとしても、何の問題もないのです。ここでポイントなのは、「事業主借」と「事情主貸」の2つの勘定科目を理解しておくことになります。
個人事業主には、「給与」という概念がありません。本人=事業主ですので、他者から給与の支払いを受けて生活しているわけではなく、自分の事業によって得た利益を使っての生活になります。そのため、個人事業主は事業に使うための資産でもある預金から自身の生活費を引き出していかなくてはいけません。
ですが、いくら「自分のお金」と言っても、記録もなく事業費を引き出してしまうと、会計時に計算が合わないということが起きてしまいます。そのようなことを防ぐために、事業費から引き出したお金を「事業主貸」として記録するのです。そうすることで、あとあと計算した時に計算がきちんと合うように仕訳をしておくのです。
※【事業主貸=事業以外で出費した金額】と覚えると理解しやすくなりますよ。
反対に、自分のお金を事業費に回した場合、「事業主借」という勘定科目として記録を残しておきます。事業用の預金額が少なくなってしまい、生活費から補填した場合や、預金に利息が発生した場合などはこの「事業主借」となります。そうすることで、事業用の資金が突然増えたことが、単なる利益ではないとわかるようにしておくことが重要になります。
※【事業主借=事業で得た利益以外の原因で増えた金額】と理解しましょう。
ここで、マイナスの時の例を1つご紹介いたします。
ある個人事業主が1年間事業を行った時、下記のようになりました。
●元入金:200万円
●事業主貸:600万円
●事業主借:150万円
●今期の利益:200万円
先ほども使用した計算式も用いて計算してみると、
200万円+150万円+200万円-600万円=△50(マイナス50万円)
つまり、元入金が50万円マイナスということになります。この結果からこの事業主の事業費は50万円減ってしまったということになります。ここで注意していただきたいのは、これはあくまでも【事例】だということです。元入金が単純な損益を表しているということではありませんので注意してください。
確かにこの事例においても、元入金がマイナスになったことには間違いありません。事業がうまくいかず、元入金が減ってしまうということは個人事業主の会計にはよくあることで、帳簿上は問題ありません。
期末の計算では、このように「事業主借」と「事情主貸」を相殺し、その残高を翌期の元入金にします。マイナスになってしまった場合は、翌期の会計を「元入金 △50」として始めれば良いのです。期首の時点でマイナスは元入金に振替られるので、「事業主借」と「事業主貸」はまた0からの状態でスタートするということは忘れないようにしましょう。
※上記の計算はわかりやすくするために省かせていただきましたが、実際の会計上では「青色申告特別控除前所得金額」も元入金に算入されます。
融資は受けられるのか?
個人事業主やフリーランスで働く人は、法人などに比べてしまうと一般的に銀行の融資を受けにくい立場ではあります。その要因の1つとなっているのが、融資を申し込む書類に「資本金」を記載するべき項目が用意されていることなのです。
個人での事業は資本金を用意せずに始めるので、このような書類の“資本金”の項目をどう記載してよいのか悩んでしまう個人事業主は多いのが現状です。
先ほど「元入金は個人事業主の資本金みたいなもの」とお話したので、元入金を記載すればいいのではと思うと思いますが、ここでは記載することができません。その理由として、このように銀行などで記載する正式書類において「資本金と元入金は別物である」と考えられているためです。
資本金はしばしば企業の信頼性を図る“指標”として扱われます。1円で設立した企業よりも、1000万円の資本金をもってして設立した企業の方が信頼されることは至極当然のことなのです。(もし、あなたがお金を融資する側だったとしても、銀行側と同じ答えを出すと思います。)
融資を申し込むための書類に、資本金を記載する欄があるということで、資本金から相手側の「信頼度」を見極めることを1つの目的としてとらえています。ですので、変動制のある元入金を記載したとしても、融資をする側としては「信頼度」を見極めることができないので何の意味もないのです。
資本金のない個人事業主がこのような取引を行う場合、元入金を算出できる根拠となる書類をそろえておく必要があるのです。
元入金が記載された帳簿や申告書類をきちんと用意することで、資本金がなくても話に応じてくれる場合があります。書類上は元入金を資本金として扱うことができなくても、融資や新規の取引において“元入金の信頼の指標”として判断するには十分可能です。
しかし、このような場合は根拠となる書類をそろえ、相手の担当者と直接会話することで駆け引きを行うようにしましょう。
確定申告で元入金の記入方法は?
さて、仕訳や計算の仕方をご紹介しましたので、確定申告についてお話していきたいと思います。
確定申告書における元入金は、確定申告書に添付する「青色申告決算書」の4枚目「貸借対象表」に登場しています。ですが、苦労して計算した期末の元入金額を青色申告決算書にそのまま書くことはできません。なぜかというと、青色申告決算書の使用によるものが関係してきます。
【青色申告決算書(貸借対照表)の元入金の額】
税務署に提出する確定申告書の様式では、記載する時に少し注意が必要になります。
元入金を記載する青色申告決算書の4枚目の貸借対象表では、
●損益勘定は「青色申告特別控除前の所得金額」
●事業主借・事業主貸は相殺せずそのままの金額
として、元入金と相殺する前の状態で記載するように欄が設けられています。つまり、この欄に従って記載すると元入金も決算整理をする前の金額(機種の金額)を記載することになるのです。
したがって、2期分の貸借対象表を並べると、前年度の期末元入金と当年の期首元入金の金額がずれているということになります。
【期末元入金≠翌期首元入金】
なので、違和感や不安を持ってしまうと思いますが、ここは「違って当たり前」と思ってください。
【ここでちょっと一言メモ】
●開業準備にかかった支出のうち、一定の物は開業費として処理することができます。開業費は経費ではなく「繰延資産」という失算になります。会計上は5年間で1/5ずつ経費としますが、財務上は申告する事業主の方が自由に経費にする年を選択することができます。それまでは繰延資産として毎年「貸借対象表」に残したままにしておき、開業から5年以内の任意の年に一括、もしくは任意の金額で経費にすることができます。
●創業後しばらくは、赤字が続くことはよくあることですので、事業が軌道に乗って利益が出るようになってから開業費を経費にすることもできるということは、開業したいけど利益が出るまでどうしようと心配してしまう方には朗報ですね。もちろん青色申告の人は3年間の赤字を繰越すことができ、それ以後に出た黒字と相殺することもできますよ。
●創業融資とは別として、事業主はある程度経過したのち金融機関から融資を受ける場合、元入金がマイナスでないこともそうですが、それ以上に損益計算上の利益及びそれ以外の生活費がどれほどかかり、それを考慮してもなお返済することができるか、将来の収入の受注見込みなどが融資を受ける時のポイントになると考えておいてほしいところです。
●青色申告で特別控除65万円を受けるためには、貸借対象表を作成することが必須であり、損益計算書だけしか作れない時は10万円の控除しか受けることができなくなってしまいます。この「55万円の差額」は利益がでるようになると、所得税や住民税、国民健康保険料の金額に大きく影響してしまうので、貸借対象表を作成してから青色申告を行うようにしてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
これから自分のお店や企業を立ち上げたいという人もいると思いますが、元入金≠資本金でないということ、仕訳の仕方や計算方法、申告書の書き方などいろいろな知識を獲得してから開業しないといけないことを、改めて知ることができたという人もいらっしゃると思います。
ただ単に、「資金を集めて、利益が赤字にならなければいい」ということだけに意識を向けるだけではいけません。私がここでご紹介したことは全てではありませんし、私自身も自分が得た知識でしか記載していません。
あくまでも、ここでの知識は“氷山の一角”として覚えておいてください。
せっかく夢だった“自分のお店”を持ったとしても、きちんした“知識”がなくてはすぐに経営は破綻してしまうでしょう。そうならないように、まずは資金もそうですがそれに伴って開業にあたってのⁿ勉強もきちんとしておくようにしましょう。
あなたの夢(お店)が破綻せずに続いて経営してほしいと願っていますので、ぜひ開業について今後も勉強を頑張ってください。ここまで読んでいただきありがとうございました。
【参照元】
◆「元入金」の仕訳と計算方法|「元入金」と「資本金」の違い
◆【元入金】はこれで完ぺき!わかりやすい元入金のポイント5
◆元入金とは?マイナスになってもOK?-元入金の仕訳や計算
◆元入金(モトイレキン)とは?会合時の仕訳方法 元入金の計算方法
元入金ってマイナスになってもいいの? 元入金の仕訳例と計算例 元入金と事業主借について
◆元入金(もといれきん)とは?【仕訳例・計算例付き】
◆【税理士監修】個人事業主の資本金「元入金」とは? 自営業の始め方