知らないともったいない!?相次ぐ副業解禁の動きと新ガイドラインの解説
大手IT会社のヤフージャパン(以下、ヤフー)が、2020年7月にギグパートナーと呼ばれる副業人材の募集をかけたこと、そしてその応募に15歳から80歳までの4500人が殺到したことがニュースになったのはご存じですか?このギグパートナーは、原則、週1回程度の勤務で5万から15万程度の報酬を支払うといったもので、対象者は副業者とはっきり記載されています。「え?副業者を募集って、今、そんなに副業がオープンになっているの?」と驚いた方、「いよいよ副業が現実化してきたな」とうなずいた方、反応はさまざまだったでしょう。
実はいま、副業解禁の動きを睨んで既に動いている方々がいます。逆に、無頓着の場合、もったいないことをしている可能性があります。しかも、働く側だけでなく、企業側も損をしているかも・・・。
今回は、そんな副業解禁にまつわる動きや実態について、説明していきたいと思います。
副業解禁は2018年に始まっていた
詳しい方はご存じでしょうが、実は副業解禁の動きは2018年に始まっていました。
そして、その前段階として、「働き方改革」という法改正を伴う大きな動きが、政府により推し進められていたのです。
この背景には、経済成長が鈍化し、労働者の年収増加も頭打ちになっているということがあります。
※厚生労働省「平成 30 年賃金構造基本統計調査の概況」より作成
上のグラフを見てください。平均賃金はオレンジ色の線です。経済が順調に成長していれば、当然右上がりとなるのですが、平成20年から平成30年にかけては、前年より低くなったり、前年と同じだったりと、決して順調とは言えません。一方、前年に対してどれくらい成長したかについては、青い棒グラフ、そして左の軸のパーセンテージで示されています。こちらでは、前年比に対して1%以上もマイナスになっていることや、政府が目標としていた2%以上の成長は実現できていないことが分かります。
賃金増加率の鈍化には、企業側の事情も大きく影響しています。景気の先行きが不透明であることから、キャッシュ(手元資金)を確保するためボーナス増や大幅なベースアップを控える傾向にあるからです。
当然、税収も頭打ちですし、国民の生活を守るため、打開策を打ち出す必要が出てきます。
そこで主に政府主導での副業解禁が行われるということになったのです。
副業解禁の具体的な動き
副業を解禁したといっても、具体的にどのような政策を行ったのでしょうか?
まずひとつめに「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発行し、平成30年1月には、「モデル就業規則」も掲示しました。それぞれの企業が副業に関する規定を修正するよう働きかけたのです。このモデル就業規則には、パワハラなどに関する規定を盛り込んだほか、最終章である14章に「副業・兼業」に関する文言が下記のように盛り込まれているのです。
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(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行う
ものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会
社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する
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※厚生労働省 「モデル就業規則(平成31年3月)」より抜粋
これまで、副業を禁止していた企業や、特段規定を盛り込んでいなかった企業も、政府がここまではっきりと方針を打ち出したり後押しをするような施策を行うと、労働者や国民全体の目が厳しくなり、対応せざるを得ないといったところではないでしょうか。
賢い企業は動き出している
副業人材を募集したにはヤフーだけではありません。
オランダとイギリスに本拠地を置き、世界中に家庭用品を中心とした商品を製造、販売しているユニリーバ・ジャパン(以下ユニリーバ)でも、2020年7月に副業人材を募集することを発表しました。そして、ギグパートナーと称したヤフーに対して、ユニリーバでは「パラレルワーカー」と表現しています。ちなみにパラレルワーカーとは、「複業」、つまり、複数の企業と提携して仕事をしている人といった意味で、本業とは別に収入を増やすなどの理由により別の仕事も行うといった「副業」よりも、並列的で、兼業に近いイメージになります。
副業人材を大々的に募集したヤフー自身は、当然従業員に副業を解禁しているといいます。
当然、ユニリーバでもこうした対策を整えていることでしょう。
いくら、政府主導とは言え、これら2つの企業はなぜ副業・複業人材を募集したり、自社の社員に副業を許したのでしょうか。
それは、社員の終業後の時間に関して、企業は縛ることはできない=自宅に直帰するのも、飲みに行くのも、副業するのも自由だからという後ろ向き的な理由だからではありません。そういったコンプライアンスの観点からの遵守もありますが、他に「副業で得た知識やスキルを本業でも活かしてもらう」といった前向きな理由なのです。
また、副業で社員が、私生活の充実(好奇心が満たされたり気分転換になる)、経済的な充実(収入が増える)が得られれば、本業でもきっと成果を出してくれるということもあります。もちろん、これ以上「賃金をあげたくない、しかし社員には不満を持たれたり辞めて欲しくない」といった隠された思惑も決して否定できないでしょう。
ちなみに、ほかにも副業解禁を就業規則に盛り込んでいる企業は出始めています。
株式会社ユニバーサル建設では条件選定社員就業規則に「業務内容、労働時間、社員の心身への影響、および本条第2項に記載の禁止・制限事項の有無等を考慮し」たうえで、「事前に会社が許可した者に限り、行うことができる」と盛り込んでいます。
また、就業規則を先駆けてオープンソースとした愛知県名古屋市にあるデンキヤギ株式会社では、第8条に兼業についての規定を盛り込んでいます。
就業規則をインターネット上に公開している企業はまだまだ少なく、かつ副業を認めていることを前面にアピールしている企業はほとんどありませんが、インターネット上を検索してみると、実質副業を認めているとして名前のあがっている有名企業がいくつか見つかります。
企業名を公表しない形でのアンケート結果では以下の通りです。
2019年の数字では、推進していると答えた企業は全体の4.4%で、容認していると答えた企業の26.5%と合わせて30.9%です。しかし、今後推奨していくと答えた企業は4割を越えており、2018年から増加傾向にあることも注目すべき点といえます。
※出典:https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2020/200324-01/
ちなみに、ユニリーバのライバルである大手生活用品メーカー、ライオンが7月に自動車大手メーカーであるダイハツが9月に副業人材募集を発表するなど、ヤフーやユニリーバに追従の動きを見せています。
このように賢い企業は早々に動きを見せているのです。
新ガイドラインが出た2020年以降、この数字がどのように変化していくのか楽しみですね。
副業を巡る動きは2021年以降加速化する?
これまでは様子を見ていた各企業も、2020年を境に、加速化する可能性があります。
なぜなら、1つめに2020年はテレワーク導入が一気に進んだ年であるからです。
2020年6月、東京都内の中小企業を対象としたアンケート(東京商工会議所が実施)では、テレワーク率はなんと6割を軽く越えています。しかも3月調査時に比べ41.3ポイントの増加です。小売業での実施率は業務内容上44.4%と低いものの、政府が推奨するワークライフバランスにむけた動きが堅調であることを意味しています。
大企業に比べて、ハードウェアの強化やネットワーク環境の整備といった点で課題の多い中小企業でもこのような結果が出たことは驚くべき事実です。もちろん、今後新たな課題が出て、小幅な減少は見られるでしょうが、以前のようなテレワークという勤務形態がほとんど見られないといった時代に戻ることはないでしょう。
2つめの理由は、政府による追加施策の動きです。
副業の長時間労働問題において2020年9月に新ガイドラインを導入することが発表されました。
副業解禁がなされモデル就業規則が出されたものの、労働時間に関する問題はくすぶっていました。それは、時間外労働については、原則月に45時間、年360時間まで、特別な事情がある場合は、年720時間など別途規定があるのですが、この管理をどのようにするのかといったものです。たとえば、もともとの本業A社での残業時間が制限時間の80%を消化しているとします。そのうえで、B社が働くことによりこの残業を越えてしまった場合、どこに責任の所在があるのかという疑問が湧いてきます。
実はこれについては、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」という、「通算ルール」呼ばれる決まりがありました。つまり、本業と副業が別の雇い主であっても、それぞれの就業時間を管理しなければならないということを意味します。フリーランスの場合は雇用関係がないため適用外になりますが、企業が労働者の副業(または本業)の労働時間について正確に管理することは、現実的に難しいため、企業にとっては非常に頭の痛い問題となっており、企業の副業に対する態度は、決して前向きではありませんでした。
2020年9月に導入される新ガイドラインはその問題に対して1歩踏み込んだ形となっています。それは、副業で働いた時間は、働く人からの自己申告によって把握し、本業と副業の労働時間を通算して労務管理を行うという指針です。つまり企業に責任を求めるということを避けた形です。しかし、事前に、本業と副業の通算労働時間が法定上限内で行うこと話し合いをしていれば、そもそも管理する必要もないとしています。
副業をしている社員とは定期的に面談などを行い、健康管理を行うこととしていますが、労働時間に対して実質的には管理責任がないのと同然で、副業が加速する可能性が高いです。
また、これらのルールは雇用関係にある場合の話ですから、副業先が雇用ではなく、業務委託という形式をとっていれば、そもそもこの縛りもありません。
結果として、労働者の健康被害を生み出すような温床を作ってしまったことは否めませんが、収入を少しでも増やしたいという労働者の願いが、今後、副業・複業・兼業をめぐる動きを加速させることは間違いありません。
副業している人の人数と内訳について
では、現在副業をしている人の割合はどれくらいでしょうか。以下は、総務省の「就業構造基本調査」から出した数字です。
※総務省「就業構造基本調査」(2018年発行)作成
青いグラフが副業している人の人数、オレンジ色が労働者に対する割合です。一番左側のグラフのように、総数が2,678,400人と労働者全体の4%が副業していることが分かっています。一方、もっと詳しく見ていくと、正規の職員や従業員のうち副業している割合は2%にとどまっているのに対し、非正規の職員・従業員では5.9%とおよそ3倍の割合となっています。
出典:パーソル総合研究所「副業の実態・意識調査」
なお、現在は副業していないさまざまな年代の男女に行った意識調査では、20代の女性では、59.1%の人が副業したいと考えていることがわかっています。20代男性の場合は55,2%ですが、ほかの年代に比べて副業への意欲が高いということがわかりました。
ヤフーやユニリーバといった大手企業による副業人材の募集が増えるにつれて、今後、正規の職員やより広い年代の方が副業を志す可能性があります。
私たちが目指したい賢い副業とは
副業解禁が行われ、さらにそれを推し進めるような政府のガイドラインが出たことで、今後副業のチャンスは広がります。特に、企業が労働時間管理責任を免れるような、業務提携という形での求人が増えてくるでしょう。しかも、多くの場合、在宅ワークや短時間で終わるような副業向けの求人であるため、誰しもが気軽に副業を行えるようになるのです。
また、先のヤフーやユニリーバのように、大手企業が堂々と副業人材を募集する例が今後どんどん増えていくでしょう。となれば、私たちにとってはキャリアップの大きなチャンスでもあります。これまで培った自分の能力を試したり、本業とは別の分野の知識や経験の習得をするといったことが可能になるのです。
実際に副業している人の多くは、————————スキルアップ(表)
長時間労働や健康被害の問題は未だに残りますが、自己管理しながら、うまく制度を利用していきたいものです。
では賢い副業をするためのステップやルールにはどのようなものがあるでしょうか。
STEP1:就業規則の確認
まずは自分が勤務している企業が副業を認めているのか確認します。
もし、認めている場合でも、本業に損害を与えないことなどといったルールが書かれていることがほとんどなので、ルール内で副業を探すことになります。
たとえば、企業イメージを損なわせる、企業秘密を漏洩するといったようなことです。
もし、そのような事態になった場合、懲戒処分や損害賠償問題に発展する恐れがあります。
なお公務員の場合は副業は基本的に禁止されていますので注意して下さい。
※出典:https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2020/200324-01/
STEP2:求人情報をチェック
副業にむいている求人は、クラウドソーシングサイトや業務請負と多く取り扱う求人サイトに掲載されています。ヤフーやアマゾンといった、自社サイトのPV数が高い企業は自社サイトで募集するケースも多いので、狙っている企業があれば定期的にチェックすることがおすすめです。
STEP3:雇用契約または業務請負契約を結ぶ
希望の求人が見つかり無事採用された場合、雇用契約または業務請負契約を結びます。
実際に仕事を始めたら本業に影響しないよう、自己管理の徹底を行います。
STEP4:税金についてもチェック
業務請負での所得が年間20万円を超えると、確定申告を行う必要があります。所得は、「売り上げから経費をひいたもの」です。たとえば、副業の売り上げが年間60万円あったとしても、経費に41万かかっていれば、所得は19万円なので確定申告自体が不要となります。
一方で、雇用契約のある副業をしている方は、合算して確定申告を行う必要があります。ただし、副業での給与所得が20万円以下の場合には申告不要です。
まとめ
今回は副業解禁や、副業推進を巡る動きに関して解説してきました。わたしたち労働者の視点だけでなく、政府の視点、そして企業側の視点も交えつつ説明して参りましたが、副業解禁には、割増賃金の取り扱いなどほかにも問題点が残されているため、今後も政府によるガイドラインの発表が行われる可能性があります。
わたしたちは、今後もそういった動きを注視しながら、賢い副業スタイルを目指していきましょう。